1 テスト問題を想定して考える
夏休み明けから、「地域の規模に応じた調査」に入るという先生がたくさんいらっしやるようなので、夏休み中に勉強してしっかり教えられるように意気込んでいらっしやる方々が多いのだと信じて、そのためにもこの研究大会は重要な意味を持っていますね。(笑い)「地域の規模に応じた調査」のところは、今までとはどこが違うかと言ったとき、テスト問題を想定するとわかりやすいかと思います。基本的には「教科書に掲載されている地域をテスト問題には出さない」ということです。中間テスト期末テストにともかく教科書に掲載されている地域は出しません。試験に出すと、どうしても知識を問うことになるし、知識で答えてしまう。そうでなくここは、学ぴ方を身につけて欲しいわけですから、学ぴ方を発揮させるには教科書で取り上げた地域ではない地域を取り上げた方が、その力を発揮させることができる、ということです。したがって目指すのは、教科書で取り上げていない地域を取り上げて、それを学んだ成果で、その地域の特色を明らかにしていくというたぐいの問題をつくることです。
そうすると、授業ではどういう授業をしなくてはならないか、どこに重点を置けばそうなるか。何度も申し上げていることですが、今までは、数学の例題でたとえれば、数学は例題を解いたら必ず練習間題とか応用問題を解くけれど、社会科の場合には、その意味で練習問題にあたる地域を扱っていません。取り上げた地域が終わったならば、別の地域はまた例題のようなかたちになっていて、例題の連続です。練習間題や応用間題と位置づける学習をやっていないのです。それを数学のようにするには仮想の地域をつくるのが基本となります。
アメリカ合衆国という具体的な地域を取り上げるのではなく、A国という仮想の国で、この国の特色を明らかにするために基本的なデータを揃える。それを読みとって地域的な特色を明らかにする。明らかになったら、それを覚える対象とするかというとどうでしょう?仮想の国A国の地域的特色を覚えさせるでしょうか?
今までは、実際にある国を例に挙げ、実際の国の特色が明らかになるが故に、答えに意味があってそれを覚えさせてきましたけれど、覚えさせればさせるほど答えにとらわれて、アメリカ合衆国は「こういうかたちで追究していくといい」という、そこの部分を全然重視してこなかったわけです。逆に言うと、今言ったように仮想の国A国を使って、どこに重点を置いて例題を学習することになるかというと、その答えを覚えさせても何の意味もありません。重点は、A国を使って答えを導き出すプロセスにあるのですから、それを学ぱせなければ意味がないじやないかということです。数学は明らかに例題を解いて答えを導き出すけれど、その答えが重要ではありません。答えは誰も覚えない。解き方を身につけて練習間題に挑戦していくわけです。解き方を習熟していく勉強の仕方をしているのです。
ですから、見失わないでいただきたいのは実際の国を取り上げるから答えが重要に見えてしまうかもしれをいけれど、主役は解き方の部分にあるということで、それを意識させるにはどうしたらいいかということです。「実際の地域があるのにわざわざ仮想の地域をつくる必要はない」というのは当然と言えるかもしれません。また、実際の国を取り上げて学習するのは重要なことですし、そのときに出てきた答えは重要かもしれないけれど、それだけに重点を置いたならぼ、いつまでも「覚える社会科」から脱却できません。学び方を主役にするのは、そのブロセスのところを主役にすることなのです。
テスト問題は基本的に授業で取り上げた国以外から、県以外のところから取り上げる、その思いで間題をつくることです。そうすれば授業でどこに重点を置かなければならないかが見えてくるばずです。今までのように事実に注目してしまい、出てきた答えに注目するとアメリカの地域の特色はこういうことだと分かったと、それにどうしても目がいってしまう。
そこに目がいっている限り、出てきた結果だけを覚え、多分このプロセスのところが意味をなさなくなってしまうということにな,ます。基本的に試験問題の問い方を変えることで、事実的なことにこだわっているとテスト問題が作れないということがわかります。授業で取り上げなかった県とか国をテスト問題に出すとすれば、授業で聞けなかった国に問うことは何なのか。そうして自分自身をある意味では追いつめていく形にしていけぱ、何を授業の中で大切にしていかなくならないか、主役は何なのかが見えてくると思います。今目指している「ゴールが学ぴ方になる」というのはそこです。今までの例題ではゴールが学ぴ方ではなく知識になっていました。教林開発もほとんどがそこでした。ゴールば知識になっていましたから、試験も知識を問うてしまうわけですよね。知識を問うテスト問題しか作れないわけです。教林開発が力を入れているのはゴールだった。だから、わかりやすい教林をつくったけれど、結果はこれを捨てて欲しい、あるいは覚えておいて欲しいという知識になっていました。学ぴ方を重視した主眼に変える必要があります。ゴールが「学び方」になるように工夫してください。
2 学び方を学ぶ
学ぴ方にあたるものとはどういうところか。それは地域の特色ですから、人間で言えばそり人ひとりひとりの個性をどうとらえるかということと同じことです。地域の特色を追究するというのは、人間としての共通性というものありますけれど、その人独自のものもあって、どういう視点でどういうところに注目すると個性をつかみやすいか。今、個性のひとつで気になっていることが学力ならばそれだけでいいのか?性格はどうなんだ?など、いろいろな視点があります。それを地域の場合はどうすればいいか、ということをやっていくことが、学ぴ方を学ぶということです。そういうアプローチの仕方、視点をどうすればいいのか、映像教材の力を借りることにします。みなさんでピデオを見てください。
(ビデオから)
日本は47の都道府県からなっています。これらの都道府県を比べてみると岩手県のように四国に近い面積を持っている大きな県もあれば、大阪府のように岩手県の8分の1くらいのところもあります。太平洋や日本海に面している臨海県、長野県や岐阜県のように全く海に臨まない内陸県もあります。さて、様々な特色を持つ都道府県をどのようにとらえていけばいいでしょう。
都道府県の特色は身近な地域のように歩いて調査するという方法ではとらえることができません。身近な地域の調査では目の前にひろがっているところは地域全体のかなりの面積を占め、目としてとらえることができますが、県全体から見ると点に過ぎなくなります。このことは身近な地域の調査や観察に便った大きな縮尺の地図では都道府県の特色を明らかにすることは難しいことを意味しています。では、どのようにして都道府県の特色を調べればいいのでしょう。次に調べ方について考えてみることにしましょう。
都道府県の規模になると身近な地域のように直接歩いて調べることが難しくなります。しかし、都道府県に関する資料情報はとてもよく整理されていて豊富です。自然、産業、生活、そして観光レジャーに至るまでさまざまな種類のものが、どの都道府県についてもよく整理されています。また、教科書や地図帳を開いてみても分かる通り、身近なところに都道府県に関する地図や統計などがたくざんあります。もちろん図書館や民間などのホームページなどでも簡単に情報を手に入れることができます。このように情報がよく整理されているのは、都道府県が様々な面で全国規模のものをとらえる基礎単位になっているからです。
さて、それでは、この豊富な情報を活用してどのようにそれぞれの都道府県の特色を明らかにしたらよいのでしょうか。都道府県に限らず地域をとらえる方法には大きく2つあります。一つは自然、農業、工業の特色というように取り上げた都道府県の特色を項目ごとに調べてまとめざまざまな面から明らかにする方法です。これを「静態的地誌」と言います。この県はどういった特色をもった県ですか?さまざまな面から調べてみましょう。こんな問いの時に向いています。項目ごとに調べ、まとめる方法はいろいろな都道府県を比べるのに便利です。ただし項目ごとにまとめるので様々な特色を羅列するだけにとどまりやすいなどの問題点も見られます。
もう一つの方法は、取り上げた地域を特色付ける事柄に着目し、それを中心に追究する課程で他の事柄を関連づけ、最終的に都道府県の特色を様々な面から明らかにする方法です。これを「動態的地誌」と言います。この方法は地域を特色付けることがらを中心に追究するので、様々な特色を関連づけてとらえることができるという長所があります。“このような特色がこの県で見られるのはなぜか?”こんな因果関係を追究するときに向いています。例えば“沖縄県は花の栽培が盛ん”、という特色に着目し、なぜ花の栽培が盛んなのかを追究していくと、沖縄県の様々な特色が関連して出てきます。ただし県によって特色付ける事柄が違ってくるので、いろいろな都道府県を比較するのには不便です。
次に都道府県の特色を“全域”と“基域”という点に留意してとらえてみましょう。全域と基域とはどういうことでしょう。日本は47都道府県から成り立っています。このような日本と都道府県との関係で見た場合、日本が全域で各都道府県が基域と言うことになります。そして、基域としての都道府県の特色は全国的な視野から他の都道府県と比較するなどして明らかにしていきます。また、都道府県を基域として扱うときには、県内の地域差は無視して、それぞれの県をひとつの基域として扱います。一方、各都道府県はそれぞれたくさんの市町村から成り立っています。このように県と市町村との関係で見た場合は、都道府県が全域で市町村が基域ということになります。全域としての県の特色はそれを構成する市町村などの特色をふまえ、それらがまとまって一つの県をつくっていると考えます。したがって県内の地域差をふまえて明らかにします。
それでは埼玉県を例にして全国的な視野から基域としての埼玉県の特色を見ていくことにしましょう。埼玉県がどんな特色を持った県か、項目ごとに追究する静態的地誌の方法で見ていくことにしましょう。埼玉県の面積はおよそ3800平方キロメートルで、全国で第39位。かなり小さな県ですね。しかし、人口はおよそ700万人で全国第5位。人口の多い県といえます。そのため人口密度も1平方キロメートルあたり1830人で、全国第4位となっています。次に埼玉県の人々はどんな仕事についているかを見ていくと、このようになっています。全国平均と比べると第一次産業と第二次産業に携わる人がやや多く、第三次産業に携わる人がやや少なくなっています。近郊農業や工業が盛んな一方、商業やサービス業などが、やや振るわないということでしょう。埼王県で生産される農作物を調べてみると、ネギ、ほうれん草、ブロッコリーといった野菜類が全国の上位に入っていることが分かります。大消費地に近く近郊農業が盛んということでしょう。一方工業製品の生産の様子を調べてみると、貿易に便利な海沿いの県が多い中で埼玉県は全国第7位。内陸県では第1位となっています。さらにどんな工業が盛んかを調べてみると機械や食料品などが全国の上位に入っていることがわかります。京浜工業地帯に近い埼玉県には各地に工業団地がつくられ、内陸型の工業が発達しています。
それでは次に県内の地域差に着圏して全域としての埼玉県の特色について見ていくことにしましょう。埼玉県の地形に注目すると西部には山地が広がる一方、中部や東部には台地や平地が広がっていることが分かります。農業の様子を見てみると平地が広がる東部に水田が広がり、稲作がさかんです。台地が広がる中部には畑がならぴここでは野菜栽培が盛んです。そして人口の大部分は東京に近い平野部に集中しており、さいたま市、所沢市、川越市などの市街地が広がっています。また、工業団地も平野部に多く見られます。このように県内を眺め渡し、埼玉県を大きく分割してみると、西部の山間地域、台地や平野で農業が盛んに行われている地域、人日が集中し市街地に覆われている地域に区分することができると言えるでしょう。
このように埼玉県を例にして都道府県の特色を基域として全国的な視野から、また、全域として県内の地域差に着目してとらえてみました。さらに調査を進めて様々な特色が明らかになったら、埼玉県でこのような特色が見られるのはなぜか?と、動態的地誌の方法で追究していくといいでしょう。さあ、それではみなさんも都道府県の特色について調べてみましょう。(ビデオ終わり)
3 学び方をゴールにする工夫
学ぴ方を主役にすると言っても、今のように展開していったときに、学ぴ方をどこで意識させるかが非常に重要です。多分ひとつひとつやっていってしまうと、今までと変わらなくなってしまうかもしれません。それを子どもたちに学ぴ方を主役にするにはどうしたらいいかと言うとき、最後をどう整理するか、ゴールのところが重要です。ゴールを重要にするためには導入の工夫が必要かつポイントになります。去年も申し上げましたけれど、まずタイトルはどうやって付けるか。学び方を学ぶときの主役は「静態地誌的なアブローチ」とか、「静態的地誌のアプローチを学ぼう」と、タイトルを付けるんですね。それで、「埼玉県を例にして」という副題を付けるのです。「埼王県を学ぼう」としてしまうと、今までと同じようにどうしてもゴールが埼玉県の特色を覚えることになる。テスト間題も埼玉県の特色を出してしまう。そうではなくて「静態的地誌のアプローチの仕方を学ぶ埼玉県を例にして」としておけば、静態的地誌のアプローチがどんなものかが基本になって、具体例は埼王県を通してやっていく。このようにタイトルを工夫することがけっこう重要です。
したがって「静態的地誌とはどういうものなのか?」がゴールで検討ざれなければいけないのです。そうすると埼玉県の特色が明らかになったのはどんな視点や方法でこの地域を追究したからなのか、その間いが最後になるわけです。だとしたら静態的地誌のアプローチの仕方で他の県もやってみる、というように練習問題が位置付いていくわけです。実際にアプローチをしていくと特質性や共通性などが出てきますから、埼王県ならではのことも出てきますし、全国共通するような部分が見えてくることもあります。アプローチの仕方として、身につけざせるのはその辺のところです。
全域と基域ということで言えば、静態的地誌、動態的地誌の両方ともやらなければならないのですが、少なくとも基本は全域として日本ということだけはなくて、九州地方ならそれでもいいのです。全域を関東地方とした場合にも県は基域になりますし、埼玉県などの都道府県が基域になると、関東地方の中で他の都道府県を比べた場合どんな特色なのかと言うときに使います。全域を日本にした場合は、47都道府県は基域となるし、気候区分からいけば別の基域に分けられ、基本的な単位になっているところを基域としていきます。47都道府県を考えるときには、県内の地域差まで考えていません。基域の基本は基本的単位になる地域ですから、その中では均一のように位置付けているわけです。今度は、埼玉県を全域とすると、単位は市町村でなくてもいいんですけれど、3地域でもいいのだけれど、わかりやすくするために市町村にすると、基域は市町村になります。市町村の集合体として埼玉県をどんな風に見ることができるか、というときには、県内の地域差を踏まえてやっていく学習になります。今までそれをややもすると曖味にやっていました。都道府県の学習をするというとき、いきなり県内の地域差に入っていってしまうのです。全域としての県の特色をどうしたら捉えやすいか。多分、県の特色をとらえると言ったら、基域としての県の特色と、全域としての県の特色の両面から押ざえていく必要があるのです。そういう目で見る見方をしっかりと定着させなくてはいけないだろうと思います。
これはこのまま大項目(3)に結ぴつきます。「世界と比べてみた目本」は、そのとらえ方で日本を見ているわけですから、(3)のところでは世界を全域としたときに、国を単位に基域とし、日本はどんな特色を持っているかを探ることが、「世界と比べてみた日本」の基本です。世界全体の中ではどうなのか。世界で5つの気候帯があるけれども、日本は北海道は冷帯に属するとはいうものの、全体的には温帯に属するということなど、これは全域を世界、基域を日本として見た場合です。それに対して日本を全域にした場合には、国内の地域差を見ていきますから、太平洋側、日本海側、内陸側ということをみていきます。(3)を繰り返しながら最後は日本の特色が見えてくる、というかたちです。ここをしっかり踏まえておけば、アプローチの仕方をこんなふうにやっていけばいいということが整理できるのではないでしょうか。基本的にそういうとらえ方ができるように、導入の仕方、タイトルの付け方をしっかりやって、ゴールが学ぴ方になっていくように、そこをしっかり押えながら、学習を展開していっていただきたいと思います。
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