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      全中地研の活動や中学校地理教育に関する情報を提供するHPです

楽しい授業をつくるためのスキルアップ講座

「大きな縮尺の地図の魅力と活用」−身近な地域の学習の充実、土・日曜日の活動の動機付け−

1 大縮尺の地図を持って歩いて分布図をつくる

 せっかくですから、こういうことは体験しなくてはダメな部分がありますので、体験していただこうと思います。今、配られている地図(2,500分の1)で、ここの建物の場所はわかりますか?ここから北に上がって行くと都道の473線がありますね。この473号線から北側と南側では区画の様子がだいぶ違っています。473号線よりも北側にいろいろな建物が密集していますので、そこをフィールドとして使いたいと思います。

 これから分布図をつくってみようというのが基本的なテーマですけれど、この地域に住んでいらっしやる方、あるいはすごく詳しい方はいますか?2500分の1の地図は、1センチが25メートルです。1キロは40センチですから、この教育センターの建物から出ていって帰ってくるまで、40センチくらい自分で歩きたいコースをとってください。そしてそれを地図に記入してくだざい。色が付いた物がいいですね。戻ってくるまで40センチです。それから、この地図B4の紙の裏を使いますので、4等分してくだざい。さらにもう一度折って8コマ作ってください。

 今自分がつくったコースのなかで、この辺のところはこんな風景だろうと想像しやすい場所を2箇所選んで、想像した箇所に番号を@とAと書き、8コマの一番上のところに、@とAのふたつの風景を今思い浮かんだとおりに描いてみてくだざい。下の段にはBとC番号を入れ、実際の風景をスケッチしてきてください。それからその下のDとEには好きなところをスケッチしてきてください。ここでは予測することが重要です。また、自然を感じる場所、たとえば花が咲いているとか、雑草が生えているところで自分が自然を感じた場所に印を付けてくだざい。それから歩きながら匂いを感じたところにも印をしてきてください。さらに、自動車以外の音が問こえたらそれも分布図に落としてください。熱や温度を感じた場所もチェックしましょう。このようにして都会の中で感覚を磨きながら歩いてきてください。五感を使って自然と匂いと音と熱、全部でなくてもいいです。準備はそれだけです。みなさん、2:30に戻ってきてくだざい。

〈2:35〉

 スケッチではこんなにレベルが高いという例で、朝倉先生のものをみなさんにお見せしましょう。朝倉先生は、わりと予想しやすいところを予想しましたね。ただ、いずれにしてもよくこんな短い時間で凄いなあと思いました。おそらく分布図をつくろうとする場合、ただ2500分の1の地図を使って道を歩いてこようとするのではなく、どこをどんなふうに工夫すると楽しみが増えるかとか、ちょっとした工夫によって変わってくると思うんですよね。楽しみながら分布図をつくって、分布図をつくる営みが景色を一所懸命見たり、地理的事象を見て社会的事象を見出したり、そういうトレーニングになりますから、とらえていくところを実際に経験していただきました。分布図をつくることに対する授業との関連とか意味ということはピデオを見てからにしましょう。出演者を気にしないで静かに見てくだざい。(笑い)

(ビデオから)

「分布図をつくろう」
 今日からの新しい単元は身近な地域の調査です。小学校で「身近な地域」はやってきたのでそのことを思い出しながら、あるいは副読本などを見ながら、あるいは地図を見ながら、もう一度身近な地域の特色をおさらいしましょう。(班の発表)この次の時間からは団地の屋上に上がって、地域を見ながら特色を見直してみたいと思います。何に着目して地図をつくるかを考えます。川が見えます、高速道路、なども。例えば家に着目して、平屋の家、二階建ての家、五階建て以上のマンションやビルの分布、あるいは屋根の形を区別して分布図をつくることもできます。自動販売機の分布や、吠える大がいる家の分布を調べるのもおもしろいですし、ベンチがあって一休みすることができる場所の分布や、誰もが無科で使うことができる公衆トイレ、晩めのよい場所、鳩が糞をして困っていそうな場所の分布図をつくることもできます。また、コンビニエンスストアーやスーパーマーケットに買い物に来る人がどこから来ているのかを間き取り調査して、その分布図をつくるのもおもしろそうです。さらにみなさんの住んでいる地域で人や車の交通量が多い道はどこか、曜日や時間を決めて各地の交通量講査を行い、分布図をつくることも考えられます。

「準備として」
 このような地域調査を行うためには縮尺の大きな地図を用意する必要があります。歩いて調べるためには一軒一軒の家が描かれている地図、2500分の1の地図や、5000分の1の縮尺の地図を手に入れる必要があります。こうした詳しい町の地図は、市役所や町や村の役場で手に入れることができます。中学を単位にして町や村の全域を調査するのならば25000分の1程度の縮尺でもいいですね。それならば国土地理院が発行している地図を書店などで購入することができます。このように地図は目的に合わせて用意することが大切です。従ってどんな分布図をどのようにつくるのか、調査の内容や方法を具体的に話し合ってから地図を用意します。このクラスでは屋上から地域を眺めたり、普段町を歩いていて気になっていたことから3つの分布図をつくることにしました。

「地域調査」
実際に町の中を調べていきます。坂道の分布図をつくる班は、上り坂と下り坂を漕ぐ力が大きく異なることから、自転車に乗っす調べることにしました。「なにげなく走っている道も登りと下りがあって、ここら辺の地域が本当に平らかどうか自分で調べて見ようと思った」フラワースポットを調べる班は地域をくまなく調べることから調査範囲を分割し、手分けして調べることにしました。「学校の前にあるプランターを見て、通る人がこころが安らぐとか、そういうことを言っていたので、そのようなところがこの町の中の学区域の中でどのくらいあるかに興味を持って、調べたくなった」

「記録用紙をつくる」
荒川の土手の利用者の居住区を調べる班は、朝、学校が始まる前の時間を利用して、土手を通る人がどこから来ているのか間き取る調査をしました。調査する内容に合わせて、あらかじめ記録用紙をつくっておくと使利です。こうした記録用紙を用意すればはかどるし、後で結果をまとめるときにも役立ちます。「土手に来たときにいっぱい人がいて、みんなどこから来ているか知りたくなった」

「調査結果をまとめる」
調査結果をすぐに書き込み分布図をつくります。フラワースポットの分布を調べた班はフラワースポットを表す地図記号を考えることにしました。大切なことはみんなが見て分かりぐすいことです。坂道の分布を調べた班は土地が高くなっているところに赤い印を付けました。

「作成した分布を読みとる」
分布図ができたらそれを読みとって、なぜそのような分布になるのか考えます。「住宅地のところに、いっぱいフラワースポットがあった」フラワースポットは住宅街に多く商店街こ少ないということが見えてきました。それはどうしてなのか?今度はそのことを調べようということになりました。土手利用者の居住区を調べた班は、時間帯が違っても同じ結果が出るのかどうか、今度は放課後を利用してざらに調べてみることにしました。坂道を調べた班は旧街道沿いが高くなっていることを発見しました。なぜ旧街道沿いが高くなっているのへ新たな課題解決のために調査をすることにしました。

どうでしたか?こんな身近なテーマを調査しただけでも地域のいろいろな特色が浮かび上がり、さらに新たな課題を発見できました。このように地域の特色を分布という目でとらえ、この地域でこのような分布がなぜ見られるのかといった課題を発見し、追究する活動は地理的な物の見方や考え方を養っていることになるのです。さあ、みなざんも身近な地域を分布という視点で調査し、分布図を手がかりにして課題をつくり、小学校の時とは違った新たな視点から地域の特色を追究する活動をしてみましょう。
                          (ビデオ終り)
2 さまざまな分布図をつくらせる

 市販されているピデオです。分布図をつくるというときに、今まで「身近な地域」の中では堅いテーマが多かったのですけれど、今、この2500分の1の地図のように大きな縮尺の地図を使うといろいろな分布図ができますから、つくる楽しみを与えながらやっていったらいいのではないかと思います。特に土、日の利用が重要です。土日はゆとりのために設けている時間ですから、宿題を出しちやだめなのですが、そもそも「ゆとり」というのは、成長期の子どもたちにとって暇な時間をつくることではなく、成長にとって意味のある活動をしていくことです。ですから、子どもたちにとってどういう「ゆとり」の時間を与えるかということが、ただ暇をもてあますのではなく、意味ある活動の動機付けを学校で与えることが重要です。義務・強制ではなく、子ども自身が主体的に活動したくなるような、そういう場面をたくざんつくってあげることが重要なのです。その一環として、こういう地図を使いながらいろいろな分布図をつくってみることは、楽しみからいっても結構なことです。

 先生方に先ほど歩いていただきましたが、最初にいろいろな動機付けを与えられて歩いてくると、ただ歩いているときよりも遙かにいろいろなものが見えてきたり、分かってきたり、集しみ方が違ってくるのがおわかりいただけたでしょう。それを授業で一回やると、後は土日に子どもたちが主体的にやることができます。そして、その結果どういう分布図をつくったか、それでどんなことが分かったか、ということをできるだけ多くの目に触れるところに展示していくことが必要です。土日の活動の成果は義務付けてはいけないけれど、成果はできるだけ意識化していく。こういう活動には、こんなふうに意味があると、それを共有していく部分があっていいと思います。子どもたちの目に触れるところに置くことで、「彼はこん麦ことを調べたのか」とか、「自分ではこんなことをやってみたい」という、別の動機付けが出てくる可能性があります。そういった相乗効果をねらいながら、個々の子どもたちの中だけにとどめないで、できるだけ公の場に出していくことです。そうすると、この分布図をきっかけにして、いろいろなものを引き出すことになります。

 分布図をつくるということは、経過をしっかり読み取る目を養っていることです。分布という目は解説書を見てもおわかりのとおり、位置とか空間の関わりで事象をとらえることですから、活動自体はまざに地理的見方のトレーニングになるわけです。「なぜこういう分布が見られるのか」という問いは、地理的考え方の基本的な問いです。ですから、そういう作業「繰り返していくことは、見方や考え方のトレーニングが自然にできていくことになるのです。
 
 直接経験的にこういうかたちをやっておきますと、たとえば修学旅行に行った時でも、風景を見る目が違ってくるでしょう。京都に着いたとき「ここは古都だ」と見えてしまったら、しょうがないですね。これは観察していない。むしろ京都の駅に降りたとき「現代都市京都だな」と見えたら、観察眼が磨かれていることになるでしょう。そのうちにバスでいろいろなところに行って、降りてみると「これが古都なのか」と分かってくる。現代都市京都を移して行き、見学する場所は古都であって、古都の分布の数が京都にはあっちにもこっちにもたくざん出てくるから「確かに他の地域と比べると違うんだ。しかし、全体の面はほとんど現代都市の表情をしている」ということが分かってきます。地図を使って、風景を見ていくトレーニングをしていくとそういうことがだんだん見えてきます。それを繰り返すと、学習の時間の中で地域のことを考えていこうとするときにも、いろいろに役に立ってくることでしょう。

 従来堅く考えてきた分布図の対象もいろいろに広げていってほしいものです。分布の対象とするものは、先ほど私が申し上げたことなどいろいろなのですが、身近な地域の学習として行う場合には「最後にいろいろな分布図ができたけど、自分の地域の特色を一番適切に表しているのはどういう分布図かなあ」ということになるでしょう。あるいは「自分の地域の特色をよその地域の人に知らせるのは、どの分布図を使って知らせるのがいいか」、という問いをしながら、「地域の特色を適切にとらえるということは、どういう事象に着目したらいいのか」といったフィルターをかける作業が大切です。いろいろな分布図が作れることに対する楽しみを大いに子どもたちに与えながら、「地域をとらえるとすれば、こういう事象に注目するとより地域が浮かぴ上がってくるんだ」と、自分たちの地域の事象と関連付けながらやっていくことが重要なのです。

3 分布図と地理的考え方

 分布図が必ずしも地理的考え方に発展するかというと、必ずしもそうでないのもありますが、例えば「吠える大がいる家」の分布図という、私の大学で学生がつくったもので考えてみます。大学の周りは道路を隔てたところはもう官庁街でして、山の方は住宅地になっています。住宅地が広がっている中に「吠える大がいる家の分布図」をつくってみようということになったのです。吠える大がいるというのは実は、庭がないとダメなんですね。かなり庭がしっかりあって大が飼える家は、ぴっしりと住宅が埋まっている中でどんな家なのかを探していくと、けっこう山裾にありました。山裾には早くから農家が立地していて、それぞれの家の分布を調べていったら、そのうちに集落の発達の歩みが見え出し、山裾にずっと列状に並んでいて、それが吠える大を飼っている家の分布図になったわけです。このように「この事象が起きるのはなぜか」と間いながらやっていくと、地域性が見えてくるということがあるのです。

 その次に「こわいおじさんのいる家の分布」というのは、茨城のある先生がやったものです。分布図の中にはこういう分布図があると便利だけど、地域的な特色に結びつく分布図とイコールではありません。その中で「こわいおじざんがいる家の分布」というのは、「できたけど、できただけかなあ」と思うわけです。しかし、もうちょっと考えていったら、そのうち「こわいおじさんがいるということは、きっと子どもたちが一回怒られている。怒られた経験がある」ということです。子どもたちがつくる分布図ですから、子どもたちが怒られるということは、いたずらしているか騒いでいるかなんですね。そうすると、「子どもがいたずらしたくなるようなものがある分布図」になったわけです。なぜか立ち止まってぺちやくちやする場所なんです。これは逆に、こわいおじさんのいる家の分布は「子どもにとって潤いのある場所の分布だった」と考えられるわけです。きっと、柿の木があったり、石を投げたくなるような、ちょっと立ち止まりながらふざけていて、そして怒られるという、そういう感じの場所の分布なんです。これは結構な地域性と言えますね。考え過ぎかもしれないけれど、そうしていろいろ出てくるわけです。調子に乗って「かわいい女の子のいる家の分布」を調べたのですが、かわいい女の子のいる家の分布というのは、分布図としてはおもしろいかもしれないけれど、これを地域性に結ぴつけるのは難しかったですね。(笑い)地理的な考え方のトレーニングまではいかないかなあと思いました。

 そういうことを考えていきますと、分布図の中で地域的な特色をしっかり表すところまで範囲が入ってくるようなものと、分布だけで終わってしまうものといろいろあるのだと思います。ただ、いろんな便利な地図をつくっておくことは地域を知る手がかりなるし、風景が見えてくるという点でのトレーニングになるわけですから、とにかくいろんな発想で分布図を作ったらいいのだと思います。そういうものをつくりながら、もっともっと考えていくとまた発展していきます。つくっていったらきりがなくなりますから、ぜひ動機付けをしながら、土日を豊かに過ごす対策として使っていったらどうかと思います。

 ちなみに私は小学校関係の学生達にはできるだけこういう活動をやらせています。小学校3,4年生では地域社会の学習をするのに、まず地域に出ていきます。そのとき2500分の1のような地図を使っていろいろな地域を眺め渡すことは重要です。風景を思い浮かべてから、周りの道は学生達の下宿先になっていますからけっこう歩き慣れている道ですけれど、実際には歩いていない道がたくさんあって、改めて歩いてみるとどんなことがわかってくるか等、いろいろな学習を15回の半期の間にやっています。

 最終的に今年の期末テストでどういう問題をつくって出したかというと、実際にやったものをお手元のプリントに載せておきました。学習の成果を知るにはどういうようにすればいいかといながらつくりました。このテストを終えた感想の中で「こんなに体力を必要としたテストは初めてだ」と多くの学生が言っていました。私としてはいいテスト問題だったと自負しています。学習の成果を見ていくときに、テストや評価の方法にはいろいろなやり方があります。創意工夫する場面もたくざんあって、学習の評価をどうするかと考えたときに、私がこんなふうに工夫しながら、一所懸命に学生が学習した評価をとらえてあげることで、学生が「自分が学んだ成果を適切にとらえ評価をしてくれた」という気分になれたかどうか。実際にはこれをとても喜んでくれました。学生の中には「こういうようにテスト間題がつくれるということが分かった」とか、「新たに地域調査のやり方が分かった」と書いてくれた学生もいました。作業をしてやった能力というのは、いろんな工夫でとらえていくことができるわけで、ぜひ机の上だけでテストをするのではなく、もっともっと適切にとらえる方法を考えてみたらどうかと思います。

 大きな縮尺の地図を使った分布図づくりは、一つのトレーニングの場として考えたときに、それなりにいろいろな楽しみがありますので、ぜひ子どもたちと余暇を使う中で、親しめるものを工夫しながらやっていってください。そして、そこから地域が見えてくると、子どもたちが地域を見る目がどんどん変わっていきます。このことは「身近な地域」としてだけでなく、知らない土地を尋ねて行った中で直接訪れた地域の風景、景観から地域を見る基礎基本になります。風景を分布図として見られることでいろいろなものが見えてくるという、旅行の楽しみのようなことが広がって、これは重要な能力です。学習の成果が生活の中に生きてくるし、学校と生活が一体化するというか、そういう方向に一つの手がかりを与える可能性にもなりますし、こういうかたちで慣れ親しんでいると総合的な学習等で使える部分も出てくると思いますので、ぜひ前向きにやっていただけたら、と思います。






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